2010年11月12日金曜日

 アナイス・ニン(1903-1977)、この稀有な女性作家を紹介し、ニン文学の神髄を探求する共有の時間と空間―「アナイス・ニン研究会」のHPが誕生しました。
 11歳の時、欧州から北米へ移民として渡り、母語のフランス語ではなく、英語で書き綴った日記や小説は、「アメリカ」という文化と時代に、同化を可能にも不可能にもするニン文学の独創性と拘りを形成したのです。このアナイス・ニンの自分捜しと自己認識は、今、21世紀の異文化社会の多様性に新鮮にも呼応します。
 プルーストと紫式部の作品が座右の書として、『源氏物語』を繰り返し熟読したというアナイス・ニンは大の親日家でした。1967年に念願の来日を果たし、江藤淳氏や大江健三郎氏らと対談しています。日本古来の繊細な感覚に共感したアナイス・ニンを現代の日本で浮上させ、ネット情報網に載せて、改めてニンの人となり、芸術を広く届けたいと思います。
 『アナイス・ニンの日記』は、少女時代から晩年に至るまで、無削除版と合わせてすでに膨大なシリーズが出版されてきました。この機会に、ニン文学を代表する『日記』のみならず、詩的散文を斬新に具現化した小説、時代を把握しつつ、時代を超えた洞察鋭敏なエッセーの数々が、再び、鮮明に登場する舞台こそ、このブログなのです。多彩なジャンルの中、アナイス・ニンの独特のエロチカは、ポルノグラフィーでは無い、にくいまで洗練された詩人の表象から成る文学作品であることも再考したいものです。
 芸術家としてのアナイス・ニンは、文学から多岐に拡張して、読者である有無を問わず、人の興味を誘います。フロイト、ユングに連なる精神分析、アンドレ・ブレトンのシュールレアリズム、D.H.ローレンス論、1930年代の「パリのアメリカ人」、マーサ・グレアムと舞踏、ドビッシーやサティの音楽、ベルイマンやジュネの映画、女性学、クイアースタディーズ。さらに、アナイス・ニン周辺の人物関係はヘンリー・ミラー、アントナン・アルトー、オットー・ランク、サレマ・ソーコール、レベッカ・ウエスト、エドマンド・ウィルソン、ローレンス・ダレル、マヤ・デレン、イサム・ノグチ、ペギー・グランビル・ヒックス等など百花繚乱です。
 アナイス・ニンはオーラを冠する麗人です。美貌の内面は、強靭な不屈の精神と絹糸の様な優しさが統合された、万華鏡の輝きを発光して人生模様を織りなすタペストリーなのです。そして、夢想も現実も、嘘も真実も、人間が他者と関わりつつ、生き抜くオデッセーならではのニンの感受性は、錬金術的意識の為せる業か、常に変幻自在です。かくして、アナイス・ニンにも伝説は付きものとしても、尽きぬ魅力は、このラビリンスの道標となるでしょう。アナイス・ニンの世界への旅立ちに際して ――― 他でもない、もう一度、私自身を探すために。ぜひ、この機会に、このホームページをご覧ください。